7時間目「空を駆け抜け山を越え」

 アメリカのゲームがコンピュータから始まりパソコンへ移っていったように、日本のゲームはゲームセンターに置いてある筐体(きょうたい)からファミコンへ移っていくんだ。だから先生が今こうしてゲームセンターのゲーム(アーケードゲーム)について語っている事は全てファミコンへと受けつがれていくんだ。

 もう少し、ゲームセンターのゲームについて語ろう。ゲームセンターに置いてある筐体はファミコンでもパソコンでもない。……当たり前だな。けれどもこの筐体はもともとの大型コンピュータと似た性質を持っているんだ。それはかんきょうに合わせて出力装置を設定できるという点だ。

 パソコンはそれまでのコンピュータとちがって、「いろんな目的に対応できる」ようにした事はすでに教えた通りだ。それにより、パソコンは音の出る装置だとか映像の映るディスプレイだとかをセットで売り出したわけだよな。逆に言えば、ユーザーからすればそれほど必要のない機能もくっついているわけだ。「オレ、音が鳴らなくてもいいからもっと安くしてくれよ」みたいにな。けれどもそういったユーザーごとの要望に応えていたらパソコンはユーザーごとに新しい設計を考えなくてはいけない。1億人いたら1億パターンの設計図を考えなくてはいけない。とてもムリだよな。だからパソコンはその性質上、余計な機能でもセットじゃないとダメだったんだ。*1

 もう一度言うが筐体はパソコンではない。ゲームセンターという公共の場所に設置されるゲーム専用コンピュータだ。だからゲームごとに音や映像や計算装置といったハードウェアを設計する事ができるんだ。不必要な機能に割り当てられていた予算を別の機能の予算に回す事ができるんだ。これによりゲームセンターではパソコンよりも映像や音といった表現力に特化した作品を作る事ができるようになったんだ。

 そして、そんな時代にゲームセンターで生まれたのが「ゼビウス」だ。このゼビウスは「スペースインベーダー」と全く同じシューティングゲームで、自分が発射したタマが相手の宇宙船に当たると相手をたおす事ができる。え?パクリなのかって?いやいや、このゲームはスペースインベーダーとは全然ちがうゲームなんだ。スペースインベーダーは空から降ってきた宇宙人を「こちらがむかえうつ」ゲームだった。けれどもゼビウスは「こちらから向かっていく」ゲームなんだ。

 一番のちがいは「背景」が存在する事だろう。スペースインベーダーパックマンも背景が真っ暗で主人公と周りにある物しかえがかれていなかった。けれどもゼビウスはコンピュータの映像機能がよくなったことで、背景をえがけるようになった。そしてこの背景をずらしながら表示(スクロール)する事によって「進んでいる」感覚を表現する事ができたんだ。

 この事がゲーム内容にも変化をもたらした。スペースインベーダーでゴールにたどり着くためには「インベーダーを全めつさせる」必要があったし、パックマンでゴールにたどり着くためには「マップ上のエサを全部食べる」必要があった。ところがゼビウスにおいて、自分が操作するのは「飛行機」だ。飛行機である以上、エンジンがかかってるから勝手に進んでいく。最初からゴールに向かって自動的に進んでいるんだ。敵はじゃまをしてくるけど、現れたと思ったらすぐに画面から消えるんだ。けれどもそれで問題はない。ゼビウスにおいて必要なのは「条件を満たして次へ進む」事ではなく、「生き残って次へ進む」事なんだ。つまり「敵を無視してもいい」んだ。もちろんボスキャラという絶対にたおさないといけない敵もいるけど、「ザコ」は無視していいんだ。

 ゼビウスに出てくる敵(ゼビウス軍)もインベーダーと同じく地球をねらった敵なんだからにがしたらヤバい気もするけど、まぁ、細かい事はいいか。おーし、今日はここまで!解散!

*1:もちろん、パーツが安価になった今では自作もありうるけど