倭は海洋国家である
「世界」というと我々は地球儀に描かれているような諸外国のある「世界」を思い浮かべがちだ。しかし、古代人にとって世界とは「自分達の目で見える範囲」が全てだった。だからもっとも古いと言われるバビロニアの地図はバビロニア周辺しか詳細に描かれていない。
注目してほしいのは「アナクシマンドロスとヘカタイオス (紀元前6世紀)の世界地図」だ。これはギリシャ人から見た世界地図なわけだが、面白い事にギリシャ人は自分達が世界の中心にいるとは考えていなかったようだ。まず、世界をぐるっと海が囲み、その中にヨーロッパ、アジア、リビア（アフリカ）の３つの大陸が存在する。世界の中心にあるのは自分達が住んでいるヨーロッパではなく、大陸を分断しているナイル川、地中海、黒海を結んだ「海」である事も分かる。
ギリシャ人は言うまでもなく、島と大陸沿岸部に住む海洋民族である。地上では資源に恵まれなかった彼らは海というものを見つめていた。そしてメンタリティが海にある彼らは地中海を中心として周辺にあるものを世界だと認識していったのだ。
さて、日本人も海の民族である事はあらゆるデータを見ればわかる。たとえば海藻を消化できるのは日本人だけというフランスの研究結果がある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E8%97%BB
フランスの海洋生物学と海洋学の研究・教育機関「ロスコフ生物学研究所（Station Biologique de Roscoff）」の研究チームは、日本人の腸が海草に含まれる多糖類を分解できるのは、分解酵素を作る遺伝子を腸内に住む細菌が海洋性の微生物から取り込んでいるためだとする論文を発表し、2010年4月8日の英科学誌ネイチャー（Nature）に掲載された。
これは弥生人が海にもぐり続けた事を知っている私からすれば当たり前の事なのだが、弥生人もまた狩猟採取的な面を持っている。例えば貝輪と呼ばれる貝で出来た腕輪をアクセサリーとして身につけていた。
http://www.mogurin.or.jp/museum/project/h23/accessory/
貝製腕輪は縄文時代からあり、大型二枚貝に穴を開けたものが広く見つかっています。弥生時代になると、沖縄などの南海でしか取れないゴホウラやイモ貝、オオツタノハといった貴重な貝が材料として使われました。南海産の貝製腕輪は限られた人物のみが身に着けていたと考えられています。やがて、これらの貝製腕輪を模した青銅製や宝器としての石製の腕輪が作られるようになりました。
貝塚は縄文時代に存在したものだ。縄文人の生活の一部に「貝を採取する」という文化があった。そして弥生人もまた貝を拾ってアクセサリーにしているのである。
そして、「日本」の古語に「八島（やしま）」がある。日本人のメンタリティは島にあり、陸の民のように見えてしまうが、重要なのは前についている「八」という数字だ。八というのは「八岐大蛇（やまたのおろち）」「「八重桜（やえざくら）」「八百万の神（やおよろずのかみ）」などを見れば分かるとおり、「数え切れないほどたくさんの」という意味がある。つまり、複数の島によって成り立った国というイメージがあり、海を渡った先に世界がある事を知っていた民族なのである。
古事記によるとこの八島は「本州・九州・四国・淡路・壱岐・対馬・隠岐・佐渡」の８つピッタリだが、８に「数え切れないほどたくさんの」という意味がある事から考えればもっと多くの「島」が範囲として含まれていたのではないか？例えば「朝鮮半島」はどうだろうか？
『三国志』「魏書」東夷伝倭人条に（帯方）郡より倭に至るに、海岸に循ひて水行し、韓国を歴、乍は南し乍は東し、其の北岸の狗邪韓国に到る。七千余里。始めて一海を度ること、千余里にして対馬国に至るとある。
また、同じ『三国志』「魏書」東夷伝韓条では「韓は帯方郡の南にあり、東西は海を限界とし、南は倭と接し、四方は四千里ばかり。韓には三種あり、一に馬韓、二に辰韓、三に弁韓。辰韓とは昔の辰国のことで馬韓は西にある」とし、韓と倭は接している（陸続きである）と記述している。
聞きなれない言葉もあるが、我々のよく知る魏志倭人伝の事を正式名称で『三国志』の「魏書」第30巻烏丸鮮卑東夷伝倭人条という。「狗邪韓国（くやかんこく）」は韓国という名前がついているが朝鮮人の国ではなく、朝鮮半島にあった倭国の領土――今風に言うならば植民地である。馬韓（ばかん）、辰韓（しんかん）、弁韓（べんかん）はそれぞれ言語や風俗の違う朝鮮半島南部の国の事であり、三韓（さんかん）と言われる。位置関係から言うとそれぞれ馬韓は後の百済（くだら、ペクチェ）、辰韓は新羅（しらぎ、シルラ）弁韓は伽耶（かや）の事と考えられる。*1
魏志倭人伝はほぼ文字情報なので正確な位置関係は分からないが、重要なのは「韓と倭は接している」という点だ。東西は海を限界としているのに、南は海を限界と言っていない。海を渡る事なく、倭に辿りつけると読める。字面だけで考えると、少なくとも「朝鮮半島南部」〜「対馬」〜「北九州」をぐるっと囲むように倭国はあったと考えられる。これに南九州やヤマトを含んでいいのかは意見が分かれるところだが、いずれにしろ大陸にまたがる大国の事を倭国と考えた方が自然である。半島に倭人が多く存在した事は朝鮮の歴史書にも書かれているらしい。
朝鮮の人にとって隠したい過去？
三国史記には古代の朝鮮半島には多くの日本人や中国人が住んでいたことが描かれています。ところが、これが朝鮮の人にとって不都合らしいのです。といっても、北朝鮮の学者は「古代の半島に日本人が居た」ということは認めていますし、半島の古代の王族に日本人が居たことも認めています。それは、別にたいした問題ではないからです。古代の朝鮮半島の王が日本人だからといって、どうということは無いのです。ところが「日本に文化を伝えたのは韓国」、としたい韓国政府にとって、それはとても不都合のようです。
三国史記（さんごくしき）は朝鮮半島最古の歴史書である。よく聞く「三国志（さんごくし）」とカブっているが、三国志は中国の歴史書の事であり、対象となる国は魏（ぎ）・呉（ご）・蜀（しょく）である。*2三国史記が対象としている国は新羅・高句麗（こうくり、コグリョ）・百済という朝鮮半島に存在した三国の事である。なので三国志と三国史記は全くの別物と言っていい。
で、肝心の倭とのかかわりだが、建国当初の臣下の一人に瓠公（ここう。ホゴン）という人物がいる。この人物は生年も姓も不明の人物で、「瓠（ひさご）を腰に下げて海を渡ってきたことから」この名前がついたらしい。つまり完全な外国人であり、その故郷は「倭」であると三国史記は語っているのだ。
また、新羅４代の王に昔脱解（せき・だっかい、ソク・タレ）という人物がいるが、この人物は「倭国から東北一千里の多婆那国の王の子」と言われる。こちらも字面だけなので、どこなのか分かりづらいが、もし大陸の倭から東北の国だというのなら、そこには辰韓があったはずだ。だから外人の国である倭国から数えるのではなく、自分達の祖先である同じ三韓の国から何千里とか辰韓にある○○国と表現すればよい。ところがわざわざ倭から数えている。つまりこれは、倭の中心が大陸ではなく、北九州近辺であり、そこから数えた国という事になる。現在では丹波国（たんばこく＝兵庫県東部〜京都府近辺）が故郷ではないかと言われている。
朝鮮半島では5世紀から6世紀にかけての新羅・百済・任那の勢力圏内で大量のヒスイ製勾玉が出土（高句麗の旧領では稀）しており、新羅の宝冠や耳飾などにヒスイ製勾玉が多く使用されている。このことから、戦前の日本の考古学者は、倭国の勢力範囲を示すモノと解釈していたが、戦後に至り、一時期、朝鮮から日本へ伝来したものという新解釈を提唱する学者も現れた。
しかし、勾玉に使われる宝石レベルのヒスイ（硬玉）の産地は、アジアでは日本とミャンマーにほぼ限られる事、朝鮮半島での出土例は日本より時期的にさかのぼるものが見られない事に加え、最新の化学組成の検査により朝鮮半島出土の勾玉が糸魚川周辺遺跡のものと同じ組成であることが判明し、倭から朝鮮半島へ伝播した事が明らかとなった。
新羅王の冠には多くのヒスイがついている。そしてその産地は日本である事が分かった。この時点で倭人（縄文人）と大陸人が無縁ではないという事が分かる。この王冠は日本から韓国へ贈られたものと考えるのが自然だろう。
……さて、ここまでの事実が分かってきた今、ハッキリさせたい事がある。それはこの「倭」の範囲について「北朝鮮の学者」は朝鮮半島にまで及んでいた事を認めているという事である。これは北朝鮮人にとってこの話が朝鮮半島南部の話であり、北部に住んでいる自分達には何の関係もない話だという事もあるだろう。だが、実はそれだけではないのである。この歴史的事実を「日本」と「韓国」は教科書に載せようとはしない。
「大韓民国」と「戦後日本」――実はこの対立する国には共通点がある。それはどちらも「アメリカ合衆国」が作った国という事だ。*3つまり、自分達の親であるアメリカと「正義を共有」しているがために、これら２国はアメリカと同じ価値観で歴史を見るのである。そしてアメリカ人の歴史観、正義から言うと「縄文人が大陸にいた」という事実はあってはならない事なのだ。
つづく
