23時間目「あの頃の君の目には」

 先生はいろんなRPGを遊んできたけれど、その中でもっとも印象深いボスキャラはなんといってもセフィロスだろうな。英雄と人々から呼ばれていたセフィロスは星の命をけずる神羅カンパニー社長を殺してしまう。けれどセフィロスの事を知るクラウドは「星を守るいいやつ」ではないと言う。それどころか「星の危機」だと言い出す。これまで星の命にも興味はないと言っていたのに不思議な話だよな。そんなこんなでクラウド達はセフィロスを追ってミッドガルの外へ出る。ここからが「黒マント編」のスタートだ。

 ミッドガルを出た時、当時のプレイヤーは何を思ったと思う?画面に広がるのはこれまでのダークな工業都市とは全くちがう世界だ。山、青空、そしてプレイヤーキャラが表示されたありきたりなフィールドマップ、ぽつんとある町、そして町の入り口には宿屋。これではドラクエみたいなふつうのメイドインジャパンのRPG(JRPG)と変わりないと思わないか?ミッドガルみたいなスチームパンクな世界が広がっているかと思ったらごくふつうのファンタジーゲームの世界になってしまったんだ。――もちろん、これは計算されたものなんだ。FF7はRPGの歴史を追体験している。つまり、ウォーゲームからTRPG、ウィザードリィからドラゴンクエストという流れをゲーム内で表現しているんだ。信じられないって?じゃあ、セフィロスの役割の変化を見ていこう。

 セフィロスは思い出の中でクラウドの戦友として登場する。クラウドにとってセフィロスは伝説のソルジャーであこがれの存在だった。あっとう的な強さでドラゴンをたおすなど実力は本物だった。5年前……クラウドが16さいの時の話だ。クラウド達が魔晄炉を調査したところモンスターを作っているのは神羅カンパニーの宝条博士である事を知る。作られるモンスターを見て、「オレは人間なのか?」と故郷を持たないセフィロスは自分の出生に疑問を感じ、神羅屋敷(しんらやしき)の図書館で資料を読み漁るようになる。数日たったある日、セフィロスの様子が変わる。クラウドを「裏切り者」と呼び、自身を「古代種セトラ」と名乗り出す。その昔、星に災害が起こった。その時にげ回ったのが人類で、セトラのぎせいで星の危機はかいひされた。ガスト博士が提唱した古代の地層から見つかった女性「ジェノバ」から古代種をふっかつさせるジェノバプロジェクトによって作られたのがセフィロスだったんだ。セフィロスは「母に会いに行く」といって屋敷を出る。セフィロスは村に火を放ち、人々を切り捨てると、ほのおの中へ消えるのだった。

 セフィロスは全人類へのうらみつらみをかたる。これはA軍、B軍という対立とは全く関係がない。そもそも神羅アバランチも自分達の生活のためだったり、星の命のためだったり、もとをただせば人のために活動している組織同士だった。つまりどちらが善でどちらが悪といった単純なものではなく、どちらも人類の敵ではなかった。ところがその戦いはセフィロスの登場によって幕を閉じた。セフィロスは村人を焼き払う。ここには「どちらの所属の人か?」なんて区分けはない。無差別に人という人を敵視している事になる。全人類共通の敵が生まれ、世界はきょうふに包まれる事になった。……かつて日本のゲームにはそういう存在がいた。それは「魔王(まおう)」である。セフィロスがでてからFF7は魔王をたおすために、魔王に関する情報を集め、追いかけるゲームに変わったんだ。

 さて、これにともないクラウドのキャラクターがじゃっかんかわる。クラウド分裂病(ぶんれつびょう)*1のようだと語られる事が多い。たしかに物語の登場人物として見るとその通りだ。だが、冷静に分析してみるとどうやらそれはゲーム内容の変化と連動していると考えた方が正しいように思う。まず、ミッドガル編はウォーゲームの主人公として出てくる。金のため自分のために行動しているというのはまさにウィザードリィと同じだな。一方でこの黒マント編はJRPGの主人公のように「星を守る」「セフィロス(魔王)をたおす」事を目的にぼうけんする。これはドラゴンクエストなんかの世界観とほとんいっしょだよな。つまり、クラウドは歴代RPGの主人公の動きをトレースしているんだ。だからこれはWIZからJRPGにおける主人公の変化と対応している。ゲームがゲームってこういう事だろ?って事を語っているんだ。

 ミッドガル編が「ウォーゲーム編」なら黒マント編は「JRPG編」と言える。しかし、JRPG編であるこの黒マント編でどんどんクラウドはおかしくなっていく。黒マテリアという重要アイテムをこともあろうか敵であるセフィロスにわたしてしまう。そしてFF7はRPGの正体をバラしてしまうんだな。それについて説明したいところだけど、今日はここまでだ。おーし、続きは次回。解散!

*1:今は統合失調症というらしい