28時間目「また信じること疑うこと」

 みんなはふだんは本を読んでいるかな?……マンガは読むけど小説は読まない?う〜ん、そうか、まぁ、先生も若いころはあんまり本を読まなかったからなぁ。そういう意味では今回しょうかいするノベル(小説)ゲームはやや大人向けの遊びかもしれないな。

 ノベルゲームというのはゲーム自体がひとつの小説のようになっていて、ボタンをおすことで1行ずつ文章が表示されるゲームだ。物語の要所要所でA、B、Cどれかを選びなさいという「選択肢(せんたくし)」が現れれて、どれを選んだかによって次の展開が変わっていくというゲームだ。みんなの世代ではわからないだろうけど、本を使って「次は○○ページ」と書かれたページへ飛びながら物語を進めるゲームブックという遊びに近いな。

 中村光一さん率いるチュンソフトが出している「サウンドノベル」では、写真を取りこんだ実写背景も使っているからふつうに小説を読んだだけではイメージしづらい場面も分かりやすく演出できたりする。第1だんの「弟切草」がホラーゲームだったせいかその後のゲームも割とこわいものが多いな。

 今回の動画にある「かまいたちの夜」も弟切草に続くサウンドノベルの作品で、ホラーだけじゃなくミステリー要素をつめこんだものだ。内容はなんというかアガサ・クリスティの小説「そしてだれもいなくなった」に対するオマージュみたいなものかな。スキー場にある山小屋にとまる事になった主人公たちはバラバラになった遺体を発見してしまう。そこで語られるかまいたち伝説。これはかまいたちの仕業が、それとも宿はく客のだれかが犯人か?

 ぶっちゃけた話、なぞ解きの内容はそんなに難しくない。犯人特定のタイミングは思ったよりも早く訪れるから、そこで犯人を的中させて事件を解決させた人もいるんだろう。でも、これは「物語」としてみるとあまりにも早く解決しすぎるんだ。ここで終わってしまうと読後感がなく、物語としてはつまらない。なぜかというと主人公が「葛藤(かっとう)」――ようするになやまない。だから見ていてハラハラドキドキしないんだ。しかも探偵(たんてい)でもなんでもない主人公が運やひらめきだけで解決するから、とてもじゃないけど納得できない展開になってしまう。これだと個性的な登場人物がこれだけいるのにむだづかいに近いな。先生がこのゲームを2時間ドラマにするんだったら女の子が一人死んでから解決させるエンディングを選ぶな。ハッピーではないけどその方がより感情をゆさぶられるからな。

 この早すぎるハッピーエンドは何を意味しているんだろうか?先生が思うに、このエンディングが意味を持つのは何度も悲劇にあった人が、もしもあの時こうしていたらこんな展開もありえただろう場合だ。このゲームの難しいところは、選択を誤ると主人公をふくむ登場人物が勝手に動きだしてしまう事だ。だから「元々の事件」とは別のところで事件が起こっていってしまい、ゴールからどんどん遠のいていってしまう。つまり、ふつうに遊んだら「失敗」する事が前提なんだ。

 物語における「失敗」。そうなんだ、前作「弟切草」はホラーゲームだった。だからAやBを選んでもどれが正解で、どれが失敗というのはなかった。きょくたんな話、ユーザーをこわがらせる事ができればどれも正解なんだ。けれど、かまいたちの夜はそれに「ミステリー」の要素が加わっている。なぞ解きには「正解」がないと面白くないよな?かまいたちの夜は「事件の真相」という正解を用意することによって、複数のエンディングの中から正解を作った。そして、犯人を的中させないと死んでしまうという「失敗」も作った。これによって物語を主体にしたゲームでありながら、スーパーマリオのような最挑戦度を持つ事ができるようになったんだ。

 ゲームと物語の結びつきが強くなっていく中で、物語の中にゲーム的な再挑戦の要素が加わった。これによってゲームのシナリオは独自の進化をしていくんだ。おーし、今日はここまで!解散!