核武装

 トランプが米軍撤退を視野にいれているから、日本独立の時が来た!今こそ核武装!みたいな盛り上がりをしている連中もいるが、話はそう単純ではないだろう。少なくとも「今の日本」は核を持つべきでない。その理由を10個ほど挙げよう。

1.平和を作り出したのは原爆じゃなく日本人
 アメリカの正義では核という絶対的正義の力で第二次世界大戦(太平洋戦争)は終わったと考える。しかし、これは違う。違うにも関わらず日本人自体がアメリカと正義を共有しているために核さえあれば、平和が訪れると思い込んでいる。あの時、日本が降伏したのは「日本人の心」に、これ以上仲間や街を壊さないでくれ!殺さないでくれという想いがあったからである。つまりこの大量殺戮兵器は「良心」がある相手にしか通用しない。これは上の人間がいかに潔く負けを認められるか?という問題が関係してくる。世の中にはひどい独裁者がたくさんいるが、例えば、民衆がどんなに危険な爆撃を受けようともトップは逃げ回ってムダに争いが長引き、そのまま同盟国に亡命してしまうなんて事だってあり得たわけだ。*1日本が仮に「核を放つであろう相手」は民衆をわが身のように大事に思うようなやつらだろうか?その土地が穢されて生活が困るようなやつらだろうか?この世の中には子供たちに誤った指示を出したまま放置して我先に自分だけが助かろうとするような奴がいる。大人だったら誰でも責任を持っているわけではない。そしてそういう我先に逃げるようなやつには全く効果がない兵器が平和を作り出せるのだろうか?

2.百姓に刀は持てない
 兵器というのは「いざとなったら使うぞ!」という覚悟があって初めて牽制に使える。逆に言えば「お前そんなもの持っていても使えないだろ?」とバカにされるような状況では意味がない。平和ボケしていた日本人の誰が核発射の責任を取る?「私は嫌だ!専門家に聞こう」「私には決められない。上司に聞こう」「他はどう思うんだろう。アメリカの意向を聞こう」――だれが核発射の決定権を持つのか。アメリカだったら大統領だが、日本には大統領並の権力者がまずいない。そこらへんにいる通行人にもお役所仕事にもムリだ。ひょっとすると軍人なら可能かもしれないが、間違いなく民意とのズレが大きくなり、暴動やデモが起きるか、軍国主義化は避けられない。一体誰がそんな終末的展開を望むというのか。

3.戦略兵器としての価値がない
 戦術というのは体術や技術のような向上する概念を持ったもので、軍隊でいうならば兵士一人一人が持つべきものである。大して戦略兵器とは切り札であり、軍師のような頭脳派が状況を見計らって投入するものであって両者は別物である。核兵器は兵隊ではなく、上層部が使用を決定するものである。そして、それを使用しなければならない時期は二つであって、一つはあらかじめの牽制としてチラつかせる方法、もうひとつは追い詰められた最後の手段である。後者は単なる悪あがきであって状況は何もよくならない。つまり論外である。だから使用法は牽制以外にないわけだ。だが、第二次世界大戦のような「まだ核兵器が存在せず、どこも開発途中」の時代ならば牽制として機能したが、「既にあちこちに核が存在する」今になって、核を持っているという事実がどのような牽制になるのか?単純に物量で多い方が相手を威圧できる。となると、核開発で後発に回らざるを得ない日本のような国は最初から戦略兵器としての核は全く期待できない。

4.実験できる場所がない
 私は日本人は定住民族だと思っている。だから北は北海道から南は沖縄まで人が住んでいる。中にはこんな秘境に?と思わず驚くような場所にだって住んでいる。それはその土地を愛し、そこに神が住んでいると考える古来からの自然観があるからだ。だが、核実験をしている国にはこのような価値観はない。奪った土地だからだ。アメリカは馬鹿でかい土地の中で田舎と決め付けた場所に打ち込めばいい。中国は漢族が住む東側の華北、華中、華南ではなく、異民族が住んでいる西側の砂漠地帯へ向かって撃てばよい。そこに住むつもりなんて最初からないのだから。でも、日本には同じ事ができない。捨てられる土地がない。日本人にとっては海であっても大事な場所だ。これは縄文時代から魏志倭人伝の時代、江戸時代の寿司文化までありとあらゆる時代から漁を大事にしてきた。つまり、生活の糧にしている場所を穢す事などできない。……あえて倫理観を無視するならば福島原発に向かって撃つという手もあるが、それは福島を二度と人が住めない地にするという事であり、これで心を痛まない日本人がいるとは正直考えられない。

5.スパイ防止法
 冷戦は何も核の力だけに頼っていたわけじゃない。スパイによる情報戦の時代でもあった。だが、日本はこういったスパイ活動をする組織が全く名前に上がらない。まぁ、それだけ大人しくやっている可能性もあるが、少なくともアメリカや北朝鮮に対応できるほどの諜報部隊が日本にあるのだろうか?と疑問である。何より不安なのは、他国のスパイの侵入を許してしまったら、兵器の持つ意味合いは全く変わる。例えば日本にある兵器の照準がスパイによって操作され、勝手に発射された事が原因で紛争の原因になってしまうという事もありうる。その時に、私がやったんじゃない!スパイだ!なんて言い訳はできない。武器を持つというのは取り扱いに関する責任を持つという事だ。ネトウヨは「実は在日の犯罪」の一言で片付けがちだが、その言葉で納得できるのは日本人だけである。外国人にとっては日本で起きた犯罪は日本の責任である。むしろ在日が好き勝手できる社会という日本の構造の問題であり、責任逃れは一切できない。……社会どころか恐ろしい事に政治の世界においても、スパイしかいないのではと疑いたくなるのが現状である。

6.国連の敵に保有を許すか?
 核保有を叫ぶ人達はなぜか楽観的な観測しかしない。例えば、日本は技術力があるからどの国よりもすぐれた核兵器を開発するだろう!とか。だが、そんな事になったらまず、国連は警戒を示すだろう。核保有の決定権は客観的に見たら国連が主導権を握っている。アメリカと日本が仲がいいといっても、そのアメリカと日本が戦ったのではなかったか。一度地に落ちた人間は後は上にのぼるだけだが、落ちないように上で必死にしがみついている人間はそういった自分の地位を脅かす者に敏感になる。日本が核を保有した瞬間に、協調性のなかったロシア、中国、アメリカという最悪のカードが並んで、日本を敵国にする可能性だってある。たかが核兵器ひとつで、だ。そもそも枢軸国だったドイツやイタリアは単独での核武装を許されているのだろうか?

7.独立した時の味方がいない
 冷戦終結にはキューバの存在が大きいと思う。つまり、アメリカという大国を黙らせるにはロシアという大国だけでなく、キューバといういつでもアメリカの首都にミサイルを撃ち込める「仲間」の存在が大きい。特にロシアとキューバの位置はアメリカをはさみうちにできる場所に存在している事が大きい。日本はなぜかアメリカ、ロシア、中国、台湾、韓国みたいな「隣国」ばかり仲良くするようだが、政治的に考えるならば、隣国は「お前らとは一緒になりたくない」と思っているから別の国名を名乗っているライバルなのであって、実際にははさみうちにする形でその隣国の隣の国となかよくしたほうがいい。敵の敵は味方という言葉もある。今のところこのような隣の隣外交ができているのは自民党(安倍)ぐらししか思いつかないあたり日本人の政治オンチさが分かる。*2おそらくは自衛戦争の経験しかない事と、戦いの哲学が戦国武将の時代でストップしてしまっている事が原因なのだろう。第二次世界大戦のときはこの考えで失敗したのだから、いい加減学んでほしいものである。

8.核保有しても発言権などない
 北朝鮮は水爆の開発に失敗した。だが、原爆の開発には成功している。水爆は島をふっとばすレベルで、原爆は都市や人をふっとばすレベルだ。長崎、広島に落ちたのは原爆だ。……要するに充分北朝鮮は恐ろしい国なのである。ところがそこまでの存在に北朝鮮はなったというのに、アメリカは危機感を持っているか?あれほど北朝鮮から敵視されているにも関わらず、アメリカはシカトしており、全く興味がないご様子だ。これはある意味で核保有した日本の未来の姿であるともいえる。日本が核を保有したとしても周りのちっこい国に対して威張れるだけで、世界からみたら「ただの国」止まりである。
 
9.アメリカや韓国と敵対できるか?
 不本意だが、アメリカ、韓国、日本の三者が歩調を合わせている時がマシなのである。それぞれが独立した時、実は痛い目を見るのが日本である。それは文化や歴史、地理的条件を見ればあきらかで韓国とアメリカは手を組んで日本に圧力をかけられる。ちょうどはさみうちにできる関係だ。というより、そのような関係になるように、バブルの時代に痛い目を見たアメリカが韓国を反日へと引っ張っていったと考えるのが自然なのである。つまり、日本がアメリカよりも強い国にならないように見張る役目が韓国にあるのであって、韓国が反日であるのはアメリカにとっては狙い通りなのである。独立すると日本は自由になるのではなく、敵が増えた事によってより不自由になるのである。

10.被爆国、非保有国という2(アメリカというジョーカーに唯一勝てるカード)
 最後に、トランプで例えよう。日本は2という最弱のカードだ。これによって6とか8とかみたいな雑魚カードにすらバカにされる。しかし、この2のカードはエースですら敵わないようなジョーカーに対抗できる唯一のカードなのである。そしてジョーカー、2、それ以外のカードの関係が3すくみになっている事が実はバランスを保っているのである。もしここでこの2がつまらない意地でジャックになってしまったら6や8には勝てるだろう、だがジョーカーやキングやエースには負ける。安易に核武装を唱える人達にはその未来が見えていないのではないだろうか。

 海外でうまくいっていることが日本でうまくいくとは限らない。日本には日本のやり方がある。焦って真似をしたところで本家には勝てない。作戦はじっくりと練るものである。願わくばあなたが世の中の論調に踊らせられないように祈るばかりである。

*1:もっとも枢軸国が追い詰められていたあの時、日本人の亡命先など存在しなかったが

*2:だからいつまで経っても自民党政権なのである。