2D脳

 自分の中でネタバレをされてもいい段階になってきた*1ので、制作者インタビューなんかをチラチラと眺めていたりする。へぇーと思うところや、やっぱりなと思うところもあるが、一番「えーっ」と思ったところは2Dでプロトタイプを作ってから、3Dゲームを作り始めたという事である。

 今回はユーザーとしてではなく開発側の意見になるが、非常にがっかりな事実である。私はてっきり日本にも3D開発に適したツールや3Dで物を考えられる人間が増えたのかと思ったら、そうでもなかった。

まず2Dゲームで開発、社員300人で1週間遊ぶ!? 新作ゼルダ、任天堂の驚愕の開発手法に迫る。「時オカ」企画書も公開! 【ゲームの企画書:任天堂・青沼英二×スクエニ・藤澤仁】

 上記のリンクでは、「つまり最近ネットで中高生に流行りの、RPGツクール製ホラーゲームみたいな手法を駆使して、プロトタイピングしたわけですね(笑)。」とか言っていたりするが、ツクールと比べるのは失礼である。ツクール歴17年の私が言わせてもらうが、アレはツクールでは作るのは難しい。ツクールは完全な2Dゲームであって、物理エンジンなんてない。逆転裁判かまいたちの夜にテニスゲームが入っていたら不自然というのと同じ事で、あり得ない事である。

 動画でプロトタイプを見せてもらったが、ここには私がブレスオブザワイルドで面白いと思った「モリブリン」も「崖登り」も「ウツシエ」も存在できない事が分かる。つまり、このプロトタイプと完成品は「別の作品」なのである。もう一度FCの初代ゼルダを作った上で、それをお蔵入りにして、それから2作くらい後の時オカを作った――みたいなものである。プロトタイプだけで1000円、続編として今作があってもいいレベルであって、普通はこんな事できないのである。もちろん、プロトタイプだけでは、現代では通用しない事は分かるが、それを捨てる事ができるのは、任天堂のようなベテランが多く、有名国立大学出身の有能な新卒が毎年入ってくるような大きな会社じゃないと出来ない手法であり、マネできない。というか、したくない。

 輪切りのソルベみたいなもので、たしかに表面上は平面的に見えるかもしれないが、私にはものすごい立体的なプロトタイプに見える。だからこのインタビューを見て、2Dを作っている人間が俺にもブレスオブザワイルド作れる!と希望を抱くのは間違いである。このゲームは

最初から3Dで制作(海外に多いゲーム)

ではなく、

2Dのゲーム → 3Dの表現(一般的的な日本の3Dゲーム)

でもなく、

3Dの構想 → 2Dのプロトタイプ → 3Dの表現(今作)

であり、とても手間がかかっている壮大なプロジェクトである。素人が手を出してはいけない領域だ。

 私はゲームデザインをする上で、ユーザー、開発者、ハード(モノ)の3つを軸に考えるのだが、任天堂って実は開発者に厳しい会社なんじゃないかと思うときがある。任天堂だけクオリティ高い作品作って、いわゆるサードパーティが参入しづらい空気を作るっていうのはロクヨンの時代を彷彿とさせる。あの時と違って、任天堂お得意の携帯ゲームの要素があるとか、WiiUみたいな過去のハード向けに作った作品も再現できるよー的な空気もあるので、まだわからないが、やや不安もある。

 業界ってのは受け手だけじゃなく、送り手の存在も大事で、ゲームに詳しくないような素人がぱっとやってきてそれまでになかった発送を持ち込んでくるってのが活性化には欠かせない。新参の存在がユーザーだけじゃなくて、作り手の側にもいた方がいい。今作は面白いゲームを作るという点では満点なんだけど、業界の活性化という点では、う〜ん――どうなるんだろうと思うのであった。

*1:ネタバレしてもいいゲームと表現したのにアレだが