ニンゲンの逆襲【ゴジラの逆襲】

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 今作は、焼き直し感が強い作品であるが、特にキャラクターはダブって見える。例えばヒロインが社長令嬢といういいとこのお嬢さんで、前作の博士の娘とイメージがカブる。また主人公達の関係が実は三角関係で、相手の男が最後は死んでしまうという話の流れも同じなのである。

 

  言葉に重みがあった前作と違って、全体的に軽くなっているので印象にも残りづらくなっている。が、大人になって改めて見ると、この「イメージの共有」には深い意味があるという事に気づく。ゴジラの逆襲は「ゴジラ」から次のように変換されている。

 

最初のシーン

海(船)→空(飛行機)

 

主人公
尾形秀人(南海サルベージKK所長)→月岡正一(海洋漁業KKパイロット)

・海の中に潜る仕事→海の上空を飛ぶ仕事
・自らの保身ばかり考える男→命知らずな男

 

ヒロイン
山根恵美子→山路秀美
・自分への好意に最後まで鈍感→自分への好意に最後は気づく

 

恋敵

芹沢大助(科学者)→小林弘治(海洋漁業KKパイロット)
・顔と心にキズを負った悩める男→ひょうきんな三枚目
・ヒロインと主人公の仲に気づいていない→ヒロインと主人公の仲を応援している
・秘密をヒロインに打ち明ける→最後まで心の内に秘める

 

ヒロインの父

山根恭平博士(古生物学者)→山路耕平(海洋漁業KK社長)

・恐竜の心配をする→人々や街の心配をする
・若者2人の恋愛に気づかない父→娘達の婚約を把握している父

 

専門家
山根恭平博士(古生物学者)→山根恭平博士(古生物学者
・助言が伝わらず、事態が悪化→助言が伝わり、対策が打たれる

 

被害者

テレビ塔のアナウンサー→タンクへ突っ込む囚人
・自己犠牲の被害者→利己的な被害者

・逃げない→逃げてる最中

 

東京都民→大阪府

・ちくしょうちくしょう→また再建しよう
・「ママー」と泣き叫ぶ子供→ジョークを言い合う大人たち

 

ゴジラ

初代ゴジラ→二代目ゴジラ

・人間だけを襲うゴジラアンギラスと戦うゴジラ
・まだ誰も見た事がない存在→東京に出現したものと同類
・なかなか姿を現さない→冒頭から姿を現す
・200万年前のジュラ記~白亜紀→およそ7千万年前~1億5千年前(地質時代
・のろいゴジラ→素早いプロレスゴジラ

 

切り札

オキシジェンデストロイヤー→氷山と爆撃機
・空想の産物→現実にあるもの

・1度きり→条件が合えば何度でも

・人間の発明力→大自然の力

 

最後のセリフ

最後の一匹だとは思えない→とうとうゴジラをやっつけたぞ

・年老いた博士の一言→若い男の一言

 

最後のシーン

東京湾→神子島
・生物が消えた海→ゴジラが氷付けになった島

 


大戸島→神子島
・東京の昔から人が住んでる島→北海道(厳密には北方領土)の人が住めない島

 

  こうして見ると全体的にハッピーエンドになるように話が書き換えられている事がわかる。誤解しないでいただきたいが、別に大阪は脳天気で東京は暗いという話ではなく、前作でかけられてしまった「呪い」をとくために今作は作られたのである。

 

  たとえば、主人公がものすごく「主人公してる」のである。

秀美「こちら支社、こちら支社、月岡機応答せよ
月岡「こちら月岡機、未だゴジラ発見できず。終わりどうぞ
秀美「天候急変の恐れあり。捜査を打ち切り、直ちに帰還せよ、終わりどうぞ
月岡「なお捜査を継続したし、現在位置北緯50度、東経147度30分。
秀美「まぁ、そんな遠くまで探す必要ないわ。もうすぐ他所の国じゃないの。早くお帰んなさい」
月岡「了解了解心配ご無用
秀美「こちら支社、こちら支社、月岡機応答せよ
月岡「こちら月岡機。なお捜査を続行中
秀美「月岡機!月岡機!直ちに帰還せよ!
(無言)
秀美「いじわる!」

  劇中でのやりとりを引用した。前作の尾形はゴジラを倒す事ばかり考えて山根博士を怒らせたり、ラストシーンでは芹沢より先に海上に浮上したため心中を許してしまっていた。月岡は尾形のような「我が身が大事」みたいな価値観は持っていない。好感の持てるキャラクターになっている。

 

 主人公のみならず、登場人物全員が「自分ができる最善の選択を成功させている」のである。ちょいと昔の作品になってしまうが、「ひぐらしのなく頃に」や「シュタインズゲート」みたいに不幸な結末の中で、全員を幸せにするルートを見つけた話が「ゴジラの逆襲」なのである。なので、ご都合主義に見えるのも当然と言えば当然である。

 

 「ひぐらし」や「シュタインズゲート」では苦労しているパートがあるから感動するが、「ゴジラの逆襲」では苦労パートを前作「ゴジラ」で描いているため、作品単体で見るとどうしても薄っぺらになってしまうのである。前作公開からわずか半年で公開されているので、ほぼ同時に上映されたようなもんである。それぞれ前編、後編と言ってもいいレベルで、前作のイメージが固定化される前にちゃんとした決着を描こうという意思表示のようにも見える。

 

 この変更は原作を担当した「香山滋」によるものだろう。前作で、原作改変されたゴジラを見た香山はゴジラに感情移入してしまった。そしてゴジラを「殺す」以外の方法で倒す方法を考え、氷のなかで眠らせるという方法を使ったのである。その後ゴジラが長い事死ななかったのは、子供向け作品だからとか、お化けだからというよりも、こういった原作者の意向を汲んでいたところがある。

 

 私みたいなゴジラファンは「これってゴジラ活躍しなくて人間の逆襲じゃね?」と思ってしまうし、一部の「政治利用」や「宗教」扱いしたい人にとっては「およそ7千万年前~1億5千年前(地質時代)の生き物」という不都合な事をなかった事にしたいらしく、「ゴジラの逆襲」という作品はあまり語られない傾向にある。が、シンゴジラが評価されるような時代には逆にゴジラの逆襲で感動できるんじゃね?とも思うのである。ネット上の評判が良くないから見ていなかった人も、1度でいいから(前作を見た上で)本作を見ておくべきである。