任天堂プレイステーション

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 誰か書いてくれないかなと思ったが、口うるさい人間が怖がらせているので、自分でやるしかない。まずは、ゲーム史が語られにくい原因である任天堂について考えてみよう。

 

 任天堂は良い会社だろうか?たしかに子供向けのゲームが多く、ゲームの品質も高い。だが、ディズニーや(今は無いが)スタジオジブリだって、その点では共通している。ディズニーやジブリはアンチが多いから、「ここが問題!」「ここが変!」と言っても結構な人が納得してくれる。ところが任天堂が言っているおかしな発言についてツッコんでも同じような賛同は得られない。

 

 ここら辺はゲハの問題が絡んでおり、任天堂に対する批判をするとソニーマイクロソフトの回し者であるかのように扱われてしまう。レッテル張りによって「こっちが正しい」という論調に引きずられてしまう。任天堂が勝つかどうかはその時々によって違うが、基本的に「負けない」企業なので、とりあえず任天堂を推しとけば間違いがないという安易な判断を下す人は多い。また、クリエイターにとっては夢のホワイト企業というイメージがあるらしく、就活生や転職を考えるゲーム業界人にとっては「最後の砦」としてあまり悪く言わない。取材を取りに行きたいライターも悪く言わない。ソフトを提供したいサードパーティーも悪く言わない。ユーザー側でも詳しく知っている信者は悪く言わないし、興味ないユーザーはそもそも任天堂に詳しくないから浅くて中身のない批判しか出来ない。

 

 なので、この偏りを解決するために、任天堂はそれなりに間違いも犯すし、大企業ではない単なる一企業に過ぎないんだという事を分かってもらうために、任天堂が失った3つのものについて調べてみた。

 

1.プレイステーションソニー


Nintendo Playstation Superdisc

 私もつい最近まで知らなかった*1が、プレイステーション任天堂スーパーファミコンの周辺機器だった。この事実は、これまで分からなかったいくつかの謎を解き明かすヒントでもある。

 

 例えば、プレイステーションにはメモリーカードという別売りの記憶媒体があるが、なんでそんな商法を取っていたんだ?という疑問があった。*2が、本来メモリーカードの役割はスーパーファミコンのロムカセットが担っていたのではないだろうか?と思うのである。

 

 また、コントローラに関しても、ニンテンドー64とスーパーファミコンのコントローラでは形状が全くのに対し、プレイステーションスーパーファミコンではほとんど配置が同じという点も単なるパクリではなく、正統進化だったと考えると見方が変わってくる。

 

https://www.cesa.or.jp/efforts/keifu/kutaragi/kutaragi02.html

 

手元には圧倒的に高速・高容量、子供がちょっとやそっと乱暴に扱ってもびくともしない最先端の磁気記録システムがあります。何はさておき、まずはソニーの営業担当者を見つけ出し、二人で任天堂本社に飛び込みました。そこでアポイントをとって会ってくれたのが、当時ファミコンの開発責任者だった第二開発部の上村雅之氏でした。そこで、次のタイミングがあるのなら、ぜひこの2インチの高性能磁気ディスクシステムを検討して頂けないかと売り込んだのです。

しかし上村氏からは「遅すぎましたね」と言われてしまいました。しかも、その任天堂ディスクシステムも、比較的短期間にその役割を終えてしまいます。そこで私は、日頃からの思いである「いかに今のゲームの音源が我慢ならないか」「もっと音源を良くすれば、ゲームはさらにすごいものになる可能性があるのではないか」それから「もしPCM音源が家庭用ゲーム機の中に収まれば、ゲームで遊ぶ人だけではなく、作曲家や編曲家など、音楽に関係するさまざまな人たちや音楽業界がこぞって家庭用ゲームに入ってくると思う」と訴えたのです。そして、「その音源のシステムはソニーに提案させて下さい」と言い残しました。

  スーパーファミコンゲームミュージックは未だに評価が高いが、その背景にはソニーの協力があったという点も忘れてはいけない。GBAでリメイクされたMOTHER2は音源がショボいとか言われるが、そのMOTHER2の音がスーファミでカッコ良かったのはソニーの力であるという意外な事実がある。

 


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  任天堂のソフトは必ずしも質素なわけではない。例えばゼルダの伝説は初代のディスクシステムの時点からオープニングのフルートイントロ、伴奏に鐘の音が聞こえるなど、音に力が入ったゲームだった。ソニースクウェアへの対抗として作られた「時のオカリナ」も「3D画面」「イケメン主人公」「映画のようなカメラワーク」と、同じジャンルじゃねーかとツッコミを入れたくなる作りをしている。ブレスオブザワイルドのWiiUとSwitch比較でも映像の違いが取り上げられる事が多く、考えれば考えるほど、映像や音を大事にするメーカーだという印象しかない。

 

2.サードパーティースクウェア

  スクウェアエニックス任天堂は和解しているわけだが、必ずしも任天堂優勢ではない。少なくともこの和解はスクウェアエニックス側に選択権があった。例えば今は社名が変わったらしいブラウニーブラウンという会社があって、スクウェアからの離脱組が任天堂の傘下に加わっている。彼らはGBA版のMOTHER3の開発にも関わったらしい。任天堂も部分的にスクウェア的な面を持っている事になり、正反対の企業ではない。

 

 また、スクウェア自体がFF映画での失敗、任天堂ゲームボーイ方面で付き合いのあったエニックスとの合併などがあった。任天堂自体には和解のコネもきっかけもなかったが、向こう側からやってきたという事になる。

 

 これを見て「任天堂は正しかった事が証明された!」と言うのは歴史的には間違っているように感じる。たしかに現在のスクエニFF15なんかでMOTHER3以上のポカをやらかし、一方で任天堂ホワイト企業扱いで業績もいいが、そういう「勝った者が正しい」という視点で過去を見てしまうと、見えないものがある。立場的にはハードを捨てる事が出来ない任天堂と、あらゆる選択肢があるスクウェアエニックスでは後者の方が強みを持っている。金だけで世の中は語れない。

 

 3.枯れた技術の水平思考横井軍平

 正直な話、これが一番言いたい事だった。横井軍平は昔の任天堂の人であって、今の任天堂の人ではない。先ほどのブラウニーブラウンスクウェアと対立して、別会社になったように、横井軍平任天堂から離脱し、株式会社コトを設立したのだから。

 

 ニンテンドーDSのデザインというのも、ぶっちゃけていうと横井のパクリと言ってもいい。横井は当時の社長から「二つのゲームを同時に遊べないか」と言われて、1982年に折りたたみ式で、二つの液晶画面がある「ゲーム&ウォッチマルチスクリーン」を出している。任天堂が初めて十字キーを採用したゲーム機でもある。

 

bunshun.jp

 ただし、間違えてもらっては困るのは、世界にない商品を作るということは、世界の最先端をゆく、世界にまだない技術を使おうということではありません。

「最先端」にこだわり、「不要」なものをたくさんつけて「高価」な玩具を作るとしたら、それこそ「大企業病」であり、「すきま」精神を忘れた行為だと思うのです。

 例えば、ファミコンの外側は「とにかく値段を1万円以下にしたい」という精神のもと、私が指示して作ったものですが、今、常識のようになっている「十字キー」と呼ばれるコントローラーがあります。

 あれはいかにしてコントローラーを安く作るかということから出てきたアイデアでした。当時のコントローラーはいわゆるジョイスティックというもので、大変コストがかかるものでした。どうしたら安くなるかというので思い出したのが『ゲーム・アンド・ウォッチ』の『ドンキーコング』という商品につけた十字スイッチでした。

 

bunshun.jp

 皆さんも、お持ちになっている家電製品で、使い方がわからず、全く使ったことがない機能がいくつもある製品があるでしょう。ワープロやビデオにもそういうものがあります。これは、大企業が作る製品だからではないか、私などそんなことを考えることもありました。

ゲームボーイ」の場合、ハードもソフトも同じ部内で開発していました。ハード屋に指示を出し、ソフト屋にそのハードでどんなことができるのかを検討させたのを見て、またハードのこの部分はいらない、ソフト屋はそんな機能は使わないといった作業を繰り返します。だからこそでき上がった商品はまるっきり贅肉のないものになりました。

 つまり、いらない機能を全部捨てたからあの値段でできたのです。私は娯楽という分野ではそれが非常に重要なことだと思います。

 もちろん、コンピュータだとそうはいきません。パソコンは誰がどんな目的で使うかわからないので、あらゆる機能をくっつけるしかない、という設計思想で作っているからです。これはある意味では正しいと言えるでしょう。

 

(中略)

 

 もともと先端技術は娯楽品を作るために出てきたものではありません。軍事であったり医療であったり、そういうもののために出てきた技術です。それがだんだんいろんな用途に使われていくうちに値段が安くなっていく。

 しかし娯楽に使おうとはまだ誰も考えつかない――――そこを狙うのが利口なやり方であり、私が言う「世界にまだない商品」の開発なのです。

 別な言い方をすると「枯れた技術の水平思考」です。炭素繊維がいい例でしょう。最初は宇宙開発に使われ、次に飛行機の主翼になり、結局身近になって釣竿とゴルフクラブでヒットしています。

 ソニーウォークマンがいい例です。先端技術がヒット商品に結びつくわけじゃない。ソニーの技術でなければできないものでもけっしてない。ああいう閃きこそ重要なんです。

 今度発売になった『NINTENDO64』はそういう意味では私の商品開発哲学とは違います。だからといって『64』が間違っているなどと大それたことも言いません。『64』が大ヒットすればその考えもまた正しかったということでしょう。

  横井軍平バーチャルボーイをはじめとして失敗も多いが、だから間違っている、語る必要がないというのは勝者の正当性だけを語る歴史観になってしまう。任天堂を語りたいのだったら横井抜きには出来ない。

 

 個人的に腹が立つのは、任天堂ファンは都合のいい時だけ横井の名前を出すという事だ。例えばニンテンドーラボは個人的には横井の考えとは違う商品なのではないか?と疑念を抱いている。ダンボールは「技術」なのか?というところが気になるし、そもそもAMAZON全盛である今、需要のあるダンボールが「枯れている」か?という事も納得がいかない。さらに値段面で言えば本体と別売りで7000円近く取るというのも横井の哲学と違うんじゃないのか?と思う。褒めるにしても横井の名前は出さないでほしい。スマホの登場で需要がなくなった腕時計を利用する身につけるゲームみたいな方が横井の考えに近い。

 

 ちなみに横井が辞めた後のニンテンドースペースワールド97の資料が手元にある。ここにはニンテンド-64の真の姿である64DD(ディスクドライブ)についても記載されている。キャプチャーカセット(仮称)という64のロムカセットの後ろにオーディオ、ビデオ、マイク端子がついていて、NINTENDO64マウスなるパソコンそのまんまのマウスもある。これらを用いた「マリオアーティスト」シリーズというものが考案されていて、「タレントメーカー」「ピクチャーメーカー」「ポリゴンメーカー」というものが企画されていた。

 

 これらのシリーズは64の下に取り付けたディスクシステムにソフトを入れ、64マウスはコントローラーの差し込み口に装着する。ロムカセットは64本体に差し込み後ろ側にある端子とビデオテープレコーダーや家庭用ビデオカメラと接続する。多分言葉で説明しても意味不明だと思うが、一言で言えば家電製品であり、パソコンであり、今のYouTube動画作成環境と大差がない。それをゲーム機でやろうとしているのである。横井の考えるゲームとは全然違う。ちなみにこの64DDには他にも「MOTHER3奇怪生物の森」「シムシティー64」「スーパーマリオRPG2」というタイトルが並び色々な妄想をかき立てる。ちなみに「ニンテンドー64」という64bitという性能を前面に押し出した「らしくない」ネーミングはMOTHERの糸井重里によるものらしい。任天堂が何を捨て、何を手に入れようとしていたのかがよくわかる。

 

 別にソニースクウェアを批判しようが、それは構わないのだが、自分たちも同じ方向へ向かっていたのに、それをなかった事にしようとする歴史観には納得がいかない。皮肉な話で、売れたのは64ではなくプレイステーション。そのきっかけはファイナルファンタジー7。任天堂を救ったのは横井の置き土産であるゲームボーイであり、本社ではなく、子会社が作ったポケモンによるものである。この事実を忘れ、再び大企業病になろうとしている任天堂を応援する気は古参ゲーマーである私にはない。

 

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2020/4/19 追記

 今見るとだいぶ感情的だったなと反省している。「任天堂プレイステーションって何やねん!周辺機器の時からソニー製だ!」みたいなツッコミ*3があったけど、引用動画にNintendo PlayStationとあったため。

*1:ちゃんとした通史が無いので当たり前の話ではある

*2:セガサターンは本体で記憶できた。

*3:私に対してとは限らないが