運ゲー

 今の時代あらゆるタイプのプレイ動画がネット上にあるわけだが、その6〜7割はメーカーの想定通りの動きをしている。よほどのクソ会社でない限りはデバッグ(テストプレイ)に時間をかけるので、大抵の予期せぬ動きというのは把握されているのである。*1ところがRTA系の動画は9割方クリエイターの想定していない動きをしていると言っていい。

 一般的なメーカーはテストプレイではゲームバランスに気を遣うので、「初見」のプレイヤーが気づくかきづかないか?みたいなものが基準になるが、RTAはそのゲームを何度も遊んだようなやりこんだ廃人が対象である。その上、アドレスの書き込みミスなどのバグを利用した攻略などもルートの一つとして用意されていたりするが、制作者からしたらそんな致命的なバグは見つけ次第削除決定である。よってこの遊びはクリエイターではなく、完全にユーザー主導で編み出された新しい遊びと言っていい。

 RTAを理解する上で重要なのが、「乱数」というものである。私はにわかなので、詳しくはググれという話だが、乱数というのはわかりやすく言えばサイコロの目の事である。サイコロの目は次に何が出るのかわからないがそれをコンピュータ上で再現しようとしたものが乱数である。基本的にRTAでは最短ルートを通ってエンディングを迎えるわけだが、乱数があると「ブレ」が生まれ予期せぬ事態が起こる。一方で乱数があるていど固定のゲームではプレイヤーの技術とか正確さといった実力のみでいい結果が出せる。

 なので、RTAと一口に言っても、「いかにミスなく次へ進めるか」という遊びと、「ミスがよく起こるが飛行機のパイロットのように冷静に対処」する遊びというような色々な楽しみ方があるようだ。「俺はこのゲームを愛していて脳内プレイできるレベル」だから前者とか、「まだ可能性があるから」後者だとか、まぁ、結局は自分が好きでやりこんだゲームなら何でも対象になれるわけだけども、競技の種類としては実は別物と言ってもいいのではないだろうか?

 面白いのはプレイヤーの実力というのが「上手な操作」だけじゃなく、「運にどう対応するのか?」という点を含むゲームがあるという事である。コンピューターはこういう「運」という要素が本来は苦手なのである。ランダムな数字を作り出す事はコンピュータのクソ真面目な性質上難しく、同じ環境では同じ結果を返すのである。乱数においても、種と呼ばれる初期値とその後のどういうタイミングでどのように数字が変化していくかという事はぶっちゃけて言えば把握できてしまうのである。RTAの親戚みたいなTASは特殊なツールを使って乱数を把握し、サイコロで毎回6が出るようにプレイしたものなのだが、理論上はTASのようなプレイが可能なのであるし、そっちの方がコンピュータの性質上やりやすいはずなのだ。

 ところが世の中のゲームはそのようにはなっていない。ユーザーからクソゲーと呼ばれても、「運」を取り入れたゲームが作り続けられているし、遊ばれているのである。

 まだ仮説の段階だが、日本でのみヒットしているゲームは「運」という要素に注目していくと何か発見がありそうなのではないかと思う夏であった。
 

*1:専門的な事を言うとバグをゼロにするのは不可能なんだけれども、商品化の段階では100時間に一度遭遇するぐらいの品質に抑えられていると思う。