日本語はユニーク

 「人種」とは身長・頭の形・皮膚の色・毛髪・目の色・血液型・遺伝子といった生物学的に人を分類したもので、よく言われる黒人、白人、黄色人種などの分類である。縄文人弥生人をDNAによって区別しようというのも日本には異なる「人種」がいたという分類である。

 一方で、「民族」とは言語・宗教・習慣など文化を共有する人々の事である。例えばアメリカのような多民族におけるアメリカ民族*1とは英語をしゃべって、アメフトだとかバスケだとかベースボールに夢中になったり、ボランティアやサプライズが好きだったりといったそういう典型的なアメリカ人の集団の事であって、黒人だろうが、白人だろうが民族としては「アメリカ人」の一派である。民族としてのアメリカ人が黒人を含む以上、白人至上主義といった「人種主義」とは明確に区別される。

 そして、民族の分類で最も重要となるのが「言語」である。人が脳みその中で考える思考は母国語を基準にしている。例えば古代ギリシャには「擬人法」という文法があった。この文法があったからこそギリシャでは自然現象を人間のように例えて考える事ができ、それによりこの世の自然現象を人の姿を借りて説明したギリシャ神話ができたのである。

 その言語において、主語や述語などの語順はどうなっているのか?女性名詞、男性名詞は存在するのか?尊敬語の表現はあるのか?ハイコンテクストかローコンテクストか?といった細かな事がその民族の宗教や文化に深く関わっているのである。

インド=ヨーロッパ語族
ゲルマン語……英語・ドイツ語・オランダ語スウェーデン語・デンマーク
ロマンス語……ラテン語・フランス語・スペイン語ポルトガル語・イタリア語・ルーマニア語
ケルト語……アイルランド語ウェールズ語ブルターニュブルトン)語
ギリシア語……ギリシア
スラヴ語……ロシア語・ウクライナ語・ポーランド語・チェック語・ブルガリア語・セルビア
バルト語……リトアニア語・ラトヴィア語
インド・イラン語……ペルシア語・ソグド語・サンスクリット語ヒンディー語ウルドゥー語

セム語族・ハム語族…{アッカド語バビロニア語・アッシリア語・アラム語フェニキア語・ヘブライ語アラビア語(以上セム語族)・エジプト語(ハム語族)}

ウラル語族……ハンガリー語フィンランド語・モルドヴィン語・エストニア

アルタイ語族……トルコ語モンゴル語ツングース語・朝鮮語

シナ=チベット語族……中国語・タイ語チベット語ミャンマー語

マレー=ポリネシア(オーストロネシア)語族……マレー語・インドネシア語タガログ語マオリ語・タヒチ

南アジア(オーストロアジア)語族……ベトナム語クメール語・モン語

ドラヴィダ語族……タミル語マラヤーラム語カンナダ語テルグ語

アフリカ諸語……ハウサ語・フラニ語・バントゥー語・コイサン語(系)

アメリカ諸語……エスキモー語・ナヴァホ語・ナワトル語・マヤ語・ケチュア語

山川出版社「詳説世界史 /世界史B」より引用)

 同系統の言語グループをまとめたものを「語族」と呼ぶ。いきなり大量の言語を紹介されて頭が混乱してしまうかもしれないが、全部を覚える必要などなく、その都度必要なものだけ紹介していくのでご心配なく。

 さて、肝心の日本語はどこにあるのだろうか?実を言えば、分からない。日本語の系統については異論が多く所属を決められないんだとか。裏を返せば日本人というのはそれだけ世界とは異なる考え方をする民族だという事も言える。*2

 そして、さらに注目すべきは、中国語と朝鮮語の所属である。中国語が中国の別読みであるシナを含むシナ=チベット語族である事は納得だ。だが、朝鮮語はシナ=チベット語族ではない。ミトコンドリアDNAが同じ祖先で、漢字という共通の文字も使っているのにも関わらず、日本、韓国、中国は文化的には全く異なる言語を使っている「別の民族」という事になる。もし中国人の一派が半島に流れ着いて、さらに日本にまで侵入してきたのなら彼らの使っていた言葉はシナ=チベット語族だったはずだ。ところが上記の分類で言うと言語的には「大した影響を与えていない」わけで、一方的な力関係にあったとは考えづらいのである。

 となると気になるのは「アルタイ語族」である。アルタイ語族はロシアとかモンゴルとかイランだとかトルコだとかカザフスタンだとかとにかくアジアの広い範囲にいるわけで当然人種としてみたら多種多様でそこから共通点を見つけるのは難しい。仮に文化的な共通点を挙げるならば「山に住み高原を動物と共に生きる遊牧民」の子孫であるという事だろうか。朝鮮人遊牧民かどうかはわからない。そもそも現代の朝鮮語とアルタイ語は相当かけ離れており、中期朝鮮語まで遡ってようやくいくつかの共通点が見つかるレベルである。上記の引用にも「?」という疑問符をつけてようやくアルタイ語族に入っている状態なので、*3本当にアルタイ語族でいいのか疑問ではある。

 また、朝鮮語と似ているという話から日本語もアルタイ語族という説もあるが、朝鮮語自体がアルタイ語としては微妙な以上ありえない話である。それに思い出してほしいが、縄文人弥生人も「海の民」だったはずである。典型的な山の民であるはずのアルタイ系が海を渡る技術など持っていたのだろうか?――それは不可能だ。歴史を俯瞰してみてみればわかる。あの最強のモンゴル帝国をもってしても日本の海は渡ってこれなかったのだから。

 弥生時代飛鳥時代鎌倉時代……これらの時代の日本と大陸の関係を見れば日本はずっと「海の民」だった事が分かる。つまりここで考えなければならないのは、なぜ元寇において日本は勝ったのか?という事である。モンゴル人が海を渡れなかったのは彼らが山の民だからと説明がつく。しかし、日本にやってきた「元」はモンゴル帝国と高麗王国の連合軍だったはずである。なぜ「海に面した国」に住む朝鮮人が協力したのに負けてしまったのか。……それは彼らが「海の民」ではなかったからである。

つづく

*1:なんて言葉があるのかは分からないが

*2:この事に関して異なる民族同士が使う共通言語をクレオール言語と呼ぶが、日本語もクレオール言語ではないかという説もあり、私がこれまでいってきた日本人のルーツが複数説、多民族説をある意味では後押ししているといえる。

*3:朝鮮語も日本語と同じで分類が難しいらしい。