18時間目「いつかきっと出会う」

 ドラゴンクエスト5のサブタイトルは「天空の花嫁(はなよめ)」だ。まもの使いでも光の教団でもなく、「花嫁」という単語がタイトルに選ばれた。それはこの言葉こそが製作者の最も伝えたいテーマという事だ。けれどもなぜ子供向けのファンタジー作品で「結婚(けっこん)」というテーマが選ばれたのだろうか?

  • シナリオ面が徹底的に叩かれた。「DQ史上最悪の物語」「展開がありがち過ぎてつまらない」「三流のお涙頂戴物語」という意見もよく聞かれた。正直、最近のDQ5の好評価には当時を知る人間として感動と驚きを感じている。
  • サブタイトルとか結婚とか出産とか、当時のDQの主要ファン層である小学生〜中学生には恥ずかしすぎる。今でいうFF10-2みたいな扱いをされたな。

(CrownArchive「DQFF批判の歴史」より引用)

 先生も子供のころは「人前でチューするなんてはずかしすぎてバツゲームの一種だろ!」とか思ってた人間だ。そんな人間からするとゲームの中で結婚というものを表現しているのはとても不思議な事だった。ただ、先生も大人になった今なら製作者が何を伝えたかったのかという事が分かる気がするんだ。

 まず、「個人」にとっての結婚とは「異性を受け入れる事」だ。男と女という全くちがう世界に生きていた者同士が「結婚」というぎしきを経て家族という新しい世界を作る。自分と異なるもの、持っていないものを受け入れる事を愛と呼ぶんだな。いや、別にエロい事が言いたいわけじゃないぞ。

 そして、「社会」にとっての結婚とは「異なる一族を結びつける事」だ。例えば戦国時代の武将は仲間に対して、身内の女性を送ってよめさんにさせていたんだ。そうする事によって「あなたと私はもう家族だ。だからもうケンカをする事はないだろう」という一種のけい約になっているんだ。

 「5」は対比構造によって物語を作っている作品だ。そして主人公は人とまものという「異なる者同士を結びつける者」だ。で、あるならば「結婚」というものがこの「異なる者同士を結びつける」という点においてもっとも平和的な解決方法だという事もわかるよな。

 「5」において結婚のモチーフは何度か現れる。主人公自身の結婚、友人ヘンリーの結婚、父親パパスの結婚のエピソードもそうだろう。これらに共通しているのは必ずしも順風満ぱんではなく、いくつもの障害を乗りこえた上での結婚だという事だ。一言で言えば身分のちがいがあるんだけど、「5」は異なる者同士を結びつける事をハッピーな事だとしているストーリーなんだ。

 だからあらゆる対立は「5」の世界ではどんどん結び付けられていく。人とまもの、王と民、兄と弟、平民と貴族、そして天空と――。これ以上はネタバレになるからやめておこう。いずれにしろこれまでのドラゴンクエストにはあった中世的な価値観は「5」でスッパリと切れる。「6」ではまものに姿を変えてしまう仲間、ダーマしんでんにはモンスターに転職できるかくし要素が用意され、まものではなく人間自身の行いによって悲劇が引き起こされるエピソードが増える。「7」ではかくされてすらおらず、モンスターの心というものが用意され、人はその心さえ持っていればモンスターにだってなれてしまう事が分かる。そして「8」では最初からモンスターみたいな姿のおっさんと旅をしている――。

 先生は一時間目で勇者がアニマルと呼ばれるモンスターを「殺している」moonというゲームをしょうかいした。このゲームはアンチRPGと呼ばれているけれども、RPGの中で最もヒットしているであろうドラゴンクエストはご覧のようにモンスターを殺すどころか、受け入れ仲間にしている。これはmoonが世に出る5年も前の話である。moonはドラゴンクエストを否定するどころか、ドラゴンクエストのテーマの延長線上にあるといっても過言ではない。なんなら同じ事を言っているだけなんだ。

 だからmoonのCMを見た時、多くのドラクエファンはおこるどころか、「そういやそうだなぁ」「そんな時代もあったなぁ」みたいな感じで笑っていたんじゃないだろうか?(中世的な)勇者が善人ではない事はドラクエファンにとっては当たり前の事だったんだな。380万人の人に遊ばれた「7」も当然中世をぶ台にしていない。だからドラクエユーザーはらんぼうものではない。人とまものという区別をしない人達がほとんどと考えていいんだ。

 え?ドラクエはたまたまそうであるだけで、「他のゲームはちがう」かもしれないだって?そうか、そう思ってしまうか。そうだな。ドラクエだけじゃダメだな。だったらドラゴンクエストと並んで日本の代表的なRPGである「ファイナルファンタジー」はどうだったんだろうか?moonが否定していたのは「ファイナルファンタジー」――FF(エフエフ)だったのかもしれないからな。次回からはこのFFについて語っていこう。おーし、今日はここまで。解散!