21時間目「その背中だけ追いかけて」

 ファイナルファンタジー6は今までのFFの集大成であり、その後のFFの方向性を決定づけた金字塔(きんじとう)的な作品だ。

 これまでのFFはドラクエありきだった。ドラクエが「1人で」りゅうおうをたおしにいくRPGを作れば、FFは「4人で」カオスをたおしにいくRPGを作った。ドラクエ2がパーティメンバーが一人、二人と「増えていく」方式をとれば、FF2は三人の固定メンバーと「毎回変わる」四人目のメンバーという方式を採用した。ドラクエ3がダーマしんでんで「転職」が出来るようにしたら、FF3はいつでも「ジョブチェンジ」できるようにした。ドラクエ4がこれまで敵だった「ドラゴンの側」からえがいた物語を作ったら、FF4はあんこくきしという「悪に所属していた側」から物語をえがいた。ドラクエ5で「世代をこえて受けつがれる母親探し」という展開に、FF5もまた「世代をこえて共通の敵と戦う」展開を用意した。

 ところがこの方法は全てにおいて「後出し」だったからできた事だ。ドラゴンクエストはじっくりと作るゲームに変わっていってしまい、6作目にしてついにFFを製作するペースはドラクエを追いこしてしまった。つまり、参考にする作品が存在しなくなってしまったんだ。

 ここでFFのスタッフはふりかえっただろう。そして気づいたはずだ。自分達にはすでに他のゲームにはない固定のファンがついているということに。そのファンのためのゲームを作っていく事になった。では、ドラクエに無いFFらしさとは何だったのか。

 それは他人になりきる楽しさだ。FF6は主人公のいないストーリー――いや、全てのプレイヤーキャラが主人公のゲームだ。まず、ゲームをはじめてプレイヤーが操作する事になるのは、ティナという不思議なちょうのうりょく少女だ。不思議な力を持っているというところもそうだけど、何より主人公がオンナノコだ。これまでにもドラクエ3、4のようにプレイヤーが自分の性別に合わせて男女を決めるというものはあった。ところが問答無用でオンナノコを操作させることはほとんどなかった。今でこそゲームを遊ぶ女子は多いけれど、かつてはゲーマーのほとんどは男子だった。仮に女子がいたとしても男の子になりきって遊ぶ方が楽しいというプレイヤーが多かったんだ。

 そんな中、FF6はプレイヤーキャラを感情移入しづらいちょうのうりょく少女にしたんだ。つまり、これから出てくるキャラはあなたではなく、全くの異世界人ですよーというところからはじまる。そしてその他人の目から世界はどのように映っているのかをながめていくんだ。だからFF6はシナリオのとちゅうでプレイヤーキャラがコロコロとよく変わる。これまでのゲームだったら「一方そのころ……」というのが映ったら登場人物が会話だけして終わる。というのが多かったけれど、FF6はその「一方そのころ……」をプレイするゲームなんだ。

 そもそもRPGは自分自身をゲームで再現する遊びではなかった。アメリカでは「う、うるせー!オレだってえっちな事したいし、暴れたいんだー!」みたいな気持ちで遊ぶものこそこそロールプレイングなんだ。アメリカは自由の国とよく言われるけれど、この自由というものは「何をやってもいいが、責任は自分が全て持つ」という独立的な精神の事を言うんだ。当然、責任能力が無い子供に自由はない。そもそも自由はもともとfreeを訳したものらしいんだけど、これは「自主」と訳した方が本来の意味に近いらしい。だからアメリカという国は実は自由な国ではなく、責任の国だったりするんだ。本当の意味での自由はRPGのような空想の世界にしかなかったりするんだな。そんな自由に羽ばたける世界にいるキャラに自分はやらない(出来ない)けどやりたい事をやらせるというのが楽しかったんだ。

 ドラゴンクエストがそうであるように日本のRPGはスペースインベーダーから始まった価値観を引きついでいて、アメリカのゲームとは異なるところにある。日本のRPGはプレイヤーが素の状態で遊んで何を感じるか?という事を前提にシナリオが組まれている。日本人はゲームを遊ぶ時に優等生になりがちだ。仮想世界とはいえ、ひどい事言ってしまうとなんかイヤな気持ちになるはずだ。それはゲームキャラと自分がそのまんま現実と地続きで結びついているだからだ。価値観のちがう異世界の体験じゃなくて、旅行先に言って帰ってくるみたいな感じでゲーム内という一つの外国での体験なんだ。アメリカのTRPGのように本来の自分と空想の自分が異なる行動を取るという事はあまりなかったように思う。*1

 だからドラクエの遊び方はRPGの本来の筋からは外れているんだ。そしてそのドラクエにぬけていた「他人になりきる遊び」をファイナルファンタジーは復活させたんだ。そしてFFはアンチドラクエをやめた結果、そのほこ先はドラクエだけでなく、全てのRPGに対して向けられる事になった。どういう事かって?それは次回から語っていこう。おーし、今日はここまで。解散!

*1:今だと実況動画とかがあるから、本来の素の状態ではなく、わざとヒールぶってワルモノプレイなんてやる人もいるかもしれないけど。