(艦これ視聴後)ワイ「こんなのはじめて…」

 かなり今更だが、アニメ「艦隊これくしょん -艦これ-」を見た。世間では評判が悪いらしいが、思いのほか面白い作品であった。ゲームの世界にはバカゲーという言葉があるが、このアニメはバカアニメという言葉がよく似合うのではないだろうか。ほとんどのシーンでつっこみどころがあり、それが狙ってそうなっているのではなく、素で面白いものを作ろうとして結果的に変になっているというのが割とツボにはまる。そういうネタ的な楽しみとともに実は今後のアニメ業界に対して色々な影響を与えるかもしれない作品だとも思っている。個人的にこのアニメのいいところは他の作品では見られない「え?何これ」がたくさんあることだ。ラノベアニメなんかは「またか……」が多かったので、こういう作品を見るとやけに新鮮で面白く感じるのである。今回はこのアニメの個人的な見所を紹介する。

1.冒頭から雑
 突然古語のような意味のわからない言葉の詠唱から始まる。女性の低音ボイスで喋っているのだが、聞きづらい上に、専門用語をバリバリつかうという始まり方のため、全く内容が入ってこない。なぜこのような怪談調の語りなのかよく分からない。しばらくすると美少女たちによるきゃっきゃうふふの世界観が始まるので明らかに浮いている。冒頭シーンはインパクトを狙うのが定石であるが、違和感や置いてけぼり感でインパクトを出す作品は見た事がない。初めての体験だ。

2.日本語なのか?

習演

上記の文字は演習と読む。日本語は縦書きが基本なのだが、横に長い看板など、スペースがない時は右から左に文字をずらしながら書いていたのである。作中でも

処味甘
宮間

のような形で使われているのだが、縦に余裕がある場合においても、このような横書き文字が多用されているので見知った文字でありながら、アラビア語を読んでいるような不思議な感覚に陥る。日本文化を主軸においていながら異世界を味わえるのはすごい。

3.武器の変身
 空母キャラのデザインが素晴らしい。特に矢を放つシーンが面白い。まず、弓道みたいな服を着たデザインで空母が表されているのだが、「滑走路から飛び立つ戦闘機」を、「弓の構えから放たれる矢」に擬人化している。空母と戦闘機の関係を女性と矢という弓道に置き換えて表現しているのである。この時点ですごい表現だと思うのだが、ここから矢を放ってある程度飛んだところで、放たれた矢が擬人(物?)化を解いて戦闘機の姿になるのである。擬人化されたものが自ら擬人化を解くというのはなかなかに珍しいのではないだろうか。通常擬人化を解いた場合写実的になりがちだが、戦闘機に乗っているのは艦娘よりはるかに頭身の低いSDキャラである。擬人化、擬人化を解く、SDという表現の重ね技をしている。それでいながらお互いの表現がケンカをしておらず、ひとつの世界観を構築しているのはもはや芸術の域に達しているといっても過言ではない。

 この表現はかなり合理的である事も見過ごせない。映像としての美しさとして、美少女の弓の構え、そこから勢いよく放たれる矢、矢の勢いが弱まったところで戦闘機として自由に羽ばたく――というそれぞれの動きの一番いいところを取り出しているためスピーディーかつ非常に気持ちのいい表現になっている。

 美少女変身ものの最先端という見方もできる。戦う美少女ものでは美少女の変身シーンが見所のひとつになっているが、これは戦隊ヒーローものからの流れで導入されたものである。そして戦隊ものでは毎回言われるが、「変身中に敵が攻撃してこないのはおかしい」というツッコミである。こういうツッコミに対して今まではお約束ですまされていたわけだが、艦これはこれを「艦娘ではなく、艦娘の持っている武器が変身する」という新しさで回避している。武器だから危なくて、変身中に攻撃できないというわけである。

 OPのトリに使われていることからスタッフもここに力を入れているという事がよくわかる。このアニメ一番の見所なので、ぜひ一度は自分の目でごらんになってほしい。

4.英語なのか?
 作中には「バアアアアニングゥ!ラアアアアブ!!(Burning Love)」と叫ぶ帰国子女的キャラがいるのだが、ネイティブ的には「バーニン、ラヴ」になるのでは?という疑問が出てくる。完全にエセ外人だが、日本の艦隊の擬人化である事を考えると狙ってやっているのかもしれない。しかし、そんなエセ外人感を持っているキャラがカレーのことを「カリー(curry)」とやたらと上手に発音したり、「ホテル(hotel)」の発音にはやたらとこだわったりと、なかなかのシュールギャグをやってくれる。

 余談だが、彼女はストーリー上めちゃくちゃ活躍する。あまりにも活躍しすぎて主人公のあこがれのお姉さん枠を食ってしまっている。彼女の名前は原作を遊んでいない私でも知っていたので、おそらく元から人気の高いキャラであったのだろう。おそらくジャンプ人気投票方式のようなものが採用されて、ストーリーが作られたのかもしれない。不自然すぎるほど特定のキャラが優遇され、その理由が説明されないアニメというものもなかなか見られるものではない

5.海をすべる少女
 私はゴジラを見て育ったので、海上戦が好きらしい。これまでのアニメ作品はマンガが根底にあり、マンガの影響を受け続けてきた。マンガは静止画と白黒の世界だから海の表現が難しい。ところがゲーム原作であり、3D表現を使用している今作では海の上でのアニメーションが主体である。空を飛ぶアニメキャラはたくさんいる。だが、海の上を滑るキャラはそうそういない。まるで新感覚のスポーツを見ているような映像はそれだけで新鮮である。

 艦隊特有の重たさがなく、太もものあたり(空中)から魚雷を出して「当たれ!」と言うメダロット的な魚雷攻撃をするのだが、こんな魚雷は見たことがない。そのメダロットも潜水型は水中からミサイルを撃っていた気がするので、おそらく初めての映像体験と言っていいだろう。

6.何度でも何度でも演じなさい
 キャラクターの印象づけには様々な方法があるが、今作では「反復」というシンプルな方法によってキャラクターが表される。「っぽい」が口癖のキャラクターは(体感的に)8割ぐらい「ぽい」を発言するし、比叡というキャラは「ひえー!」という名前を使った叫び声(ギャグ)を(体感的に)4〜5回は繰り返すし、「赤城さんは大食い」という設定があったら、ハムスターのように頬を膨らませる演出が(体感的に)2、3回繰り返されるし、百合キャラは相方とのイチャコラを邪魔されるとキレるというのを(体感的に)毎回やる。このようなクドい反復による漢字練習のような演出が行われるため、終いにはキャラが出ただけでその後の展開が読める予知能力を授かる事になる。このような幼少期の学習体験を思い出させてくれるアニメはなかなか無い。

7.しゃべらず、うつらず、わけわからず
 通常プレイヤーキャラは対象の層によってキャラクターが決まり、その層にとって最も感情移入しやすいキャラクターとなる。だが、原作ゲームではプレイヤーキャラだった司令官(提督)は掴み所の無いキャラクターとして描かれている。

  • 姿見えない
  • 何を考えているのか分からない
  • 唯一無二の存在
  • すべての艦娘と(おそらく)面識がある
  • 全てを悟ったような作戦
  • 奇跡的な生還
  • 戦闘機に乗ってるSDキャラではなく艦娘と同じ頭身

 ドラゴンクエストのように感情移入しやすくするために姿を決めない、喋らないという例はあるが、語らない事で逆に感情移入しづらいというのは見たことが無い。なんともミステリアスなキャラだが、我々の世界にはこういう存在がいる。それは「神」だ。これまでにも無意味に女性にモテまくったり、スーパーマサラ人化するような超人はいたが、それらは人類が取り得る進化の可能性の一つに過ぎなかった。仮に設定上神のキャラであっても、人間臭いところが描かれたりと、日本やギリシャのような「なんちゃって神様」だった。だが、今作の提督は正真正銘の神としか表現のしようがない。いろんなゲーム原作アニメがあるが、プレイヤーキャラを神にしてしまったアニメは空前絶後であろう。

8.擬人化ものなのに元ネタわからない
 擬人化や萌え作品は基本的に元ネタありきである。そして戦国BASARAヘタリアみたいに元ネタを誇張して描いた作品が非常に多い。最近のオタクはこういった作品から入っていろんな物の知識を増やしていく。もえたん以後はそうやってオタクは教育されていったのである。しかし、今作は元ネタではなく、元ネタから派生した二次創作ネタでキャラを作っている。そのため、全くどんな艦隊なのかわからず、唯一分かりやすく描かれるヤマトは既に元ネタが有名である。知識や学習と切り離し、娯楽に徹底する姿勢はエンターテイナーとして私も見習いたいところである。

9。クラス替え早い
 学園ものでいうところのクラス替えが早い。明らかな推しキャラで揃えられた新編成で、その構成の理由が作中で説明されないので、ますますジャンプ式人気投票がある事を疑う。いずれにしろたったの12話の中でRPGのパーティよりも早い編成チェンジを何度も繰り返すのはなかなかすごい。

10.音を考えない
 とある話のラストで主人公吹雪に秘書艦が「かいになれ」という伝令を伝えるのだが、音だけ聞いた時は「下位になれ?」いや「貝になれ?」と疑問だったが、おそらく前後の展開から考えると「改になれ」という事になるのだろう。日常生活で聞き慣れない言葉をセリフで言う時は気を遣ってほしいが、このような盛り上がるシーンで視聴者をぽかーんとさせる作品は新鮮である。

11.ゲスト大活躍
 このアニメの最終決戦は「全員集合」→「いや私は不死身だ。まだ死なん」みたいな小学生が考えたような萎えバトルなのだが、その最中にまさかのゲストキャラが登場する。ジャニーズ主演のドラマなどではよく大物ジャニーズとかが友情出演で、最終回の本筋が終わった後のシーンでちょろっと出てくるというのがあったりする。しかし、今作ではゲストキャラが何の伏線もなく、決戦のおいしいところを持って行く。しかし、アイドルや俳優と違ってバラエティや他のドラマに出演したわけでもない人物が出てきても、「誰お前感」が強い。一番の見せ場で場違い感を出すゲストがいる作品というのはアニメに限らずあまり見たことがない光景である。

 とまぁ、いろいろ挙げてみたが、それなりに楽しめた。ブラウザゲームだったからノーマークだったが、これからはチェックぐらいはしようかなと思う。中には不満を持つ人がいるらしいが、割とどうでもよかった。

 いろんな原作レイプを見てきた人間からみたら、床屋に行って前髪切られ過ぎたレベルであって、この程度で大騒ぎすんなと思った。最も成功したゲームアニメであるアニポケでさえ、タケシというキャラ一つとっても原作と違うわけで、それでもあれはあれで魅力があるからいいじゃないかと思う。

 クリエイター目線で言ってしまうと、艦これはジャンル的にシミュレーションゲームっぽいから起承転結を作りづらく、なおかつ現行でサービスが続いている以上終わらせる事が出来ない作品。1クールではなく、サザエさんみたいな毎日放映できる枠が必要なんだけど、老若男女共感できるキャラがいて、TOSHIBAみたいな固定スポンサーを作らない限り同じ事はテレビではできない。おそらくそこら辺でブレーキがかかって軌道修正した結果がこのアニメなんだと思う。そう考えると粗が多いけど、まぁまぁ頑張った方だと思う。

 掘り下げるといろんな事が推察できるけど、ゲームのアニメ化についてはいずれ別の機会に書こうかなと思っている。

2020/4/5追記

 こんな事言っているけど、シンゴジラ見てキレている。あと戦前の文字表記については、こういう表現もあるっぽいのでもう少し勉強しようと思う。